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まる社会保険労務士事務所

2025.02.21

労働基準法改正議論について(2026年改正予定)

本年1月に厚生労働省「労働基準関係法制研究会」より、労働基準法改正に関する報告書が公表されました。

 

現在、厚生労働省では労働基準法の改正議論が行われており、この報告書の内容が改正法のたたきとなります

 

ので、その主だった内容についてご紹介します。

 

項目は以下のとおりです。

 

(1)連続勤務の上限規制について(連続14日以上の勤務の禁止)

 

(2)法定休日の特定義務化

 

(3)勤務間インターバルの義務化

 

(4)年次有給休暇取得時の賃金算定の原則を「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」に

 

(5)兼業・副業者に対する割増賃金について、労働時間の通算制度を同一の事業主に限定

 

以下、各項目の解説です。

 

 

(1)連続勤務の上限規制について(連続14日以上の勤務の禁止)

 

現在の労働基準法では、週1日の休日の付与義務の特例として、4週4日の変形休日制が認められており

 

(就業規則等による規定がある前提)、これを適用すれば24日間の連続勤務とすることも可能です。

 

更に、月をまたいだ休日の設定について特段の定めがないことから、2か月の単位で見たときには48日間の

 

連続勤務も実質的に可能となります(ただし、この連続勤務を設定した場合に労災事故や従業員の精神疾患等が

 

起きると、事業主の安全配慮義務違反が問われることとなり、賠償責任問題が別に生じます)

 

今回の報告書では、精神疾患による労災認定基準が連続2週間の勤務であることを踏まえ、これとの整合性の観点

 

から連続勤務の上限を13日までとするよう提言されています。これにより、変形休日制も現行の4週4日から2週2日

 

へと変更されることとなりそうです。

 

 

(2)法定休日の特定義務

 

現行の労働基準法では、法定休日について特定することを義務付けておらず、法定休日とそれ以外の休日の区別が

 

行われていない企業も数多くあります。この場合、厚生労働省通達(昭和23年5月5日基発682号)に基づき

 

法定休日が事後的に特定されることとなりますが、今回の報告書では法定休日に関する法的規律を明確にする

 

ために法定休日を特定することを提言しています。これに伴い、法定休日を特定する期限や法定休日の振替の

 

手続き等について、就業規則等への規定を求められることとなりそうです。

 

 

(3)勤務間インターバルについて

 

前の勤務の就業時刻と、次の勤務の始業時刻の間に一定の間隔を設ける「勤務間インターバル」について、

 

今回の報告書では11時間を法定の原則とするよう提言しています。

 

 

(4)年次有給休暇取得時の賃金算定について

 

現行法では、年次有給休暇取得時の賃金について、以下のいずれかの方法で算定することができます。

 

① 労働基準法第12条の平均賃金

 

⇒直近の賃金締切日以前3カ月間の賃金総額を、その暦日数で除して計算

 

② 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

 

⇒所定労働時間1時間あたりの固定手当込みの賃金単価×取得時間数で計算(月給制の労働者に対する1時間

 

あたりの単価の算定方法には、「その月の所定労働日数」を使用する方法と「1年間の所定労働日数を使用し

 

計算する1か月平均所定労働日数」を使用する方法があります)

 

③ 健康保険の標準報酬月額の30分の1に相当する額

 

⇒健康保険被保険者について労使協定を締結した場合に限り、標準報酬月額の30分の1を年次有給休暇取得

 

時の1日あたりの賃金とすることができます。この算定による1日あたり賃金は、年次有給休暇取得時にのみ

 

適用できます。

 

以上の3方式のうち①及び③については、特に日給制・時給制の労働者に対し不利な賃金額となることが多い

 

ことから、今回の報告書では②の方式を原則とすることを提言しています。

 

 

(5)兼業・副業者に対する割増賃金について

 

現行法では、兼業・副業者に対する割増賃金について、他の事業者での労働時間との通算による割増賃金の

 

支払が義務付けられています。

 

例えば、Aという会社で週に30時間(日~木まで毎日6時間)の雇用契約を結んでいる労働者が、事業主の異なる

 

Bという会社で金曜日に6時間、土曜日に8時間働くという雇用契約を新たに結んだとします。

 

事業者B 4時間
6時間 4時間
事業者A 6時間 6時間 6時間 6時間 6時間
週所定

労働時間

合計

6時間 12時間 18時間 24時間 30時間 36時間 44時間

 

この場合、Bで働く日曜日の4時間分については、労働基準法で定める週40時間の法定労働時間を超過

 

することとなります。この超過する4時間(赤字部分)については、Bが割増賃金を支給することとなって

 

います。しかし、この方法は他の事業者との兼業者について、当該他の事業者の下での実労働時間の把握を

 

正確に行うことが求められるため実効性に疑問が残ります。また、このようなルールがあることで事業主が

 

兼業を禁止する等、労働者の労働の権利を阻害する要因ともなっています。

 

このことから、今回の報告書では労働時間の通算制について、原則同一の事業主に限定して適用するもの

 

とし、長時間労働に対する健康管理については別の方策を採ることを提言しています。