
令和8年度は、介護・障害福祉の両分野で処遇改善加算の見直しが
行われました。
今回の改正は、単なる加算率の調整にとどまらず、対象サービスの拡大、
賃金改善の考え方の見直し、生産性向上等を踏まえた新たな評価など、
実務に直結する変更を含んでいます。
特に、これまで対象外だったサービスを運営している事業者や、処遇改善
計画書の作成を毎年ルーチンで行ってきた事業者ほど、前年の感覚のまま
対応すると見落としが生じやすいため注意が必要です。
【介護分野】
令和8年度の介護報酬改定において、
① 訪問看護
② 訪問リハビリテーション
③ 居宅介護支援
④ 介護予防支援
について、新たに処遇改善加算の対象とされました。
これまで処遇改善加算の対象外であったため、「自分の事業は関係ない」
と考えていた事業者でも、今年度からは加算取得の可否を検討すべき
状況になっています。
【障害福祉分野】
処遇改善加算の対象が福祉・介護職員のみから障害福祉従事者へ拡大
されました。さらに、これまで対象外だった
① 計画相談支援
② 地域相談支援
③ 障害児相談支援
にも新たに処遇改善加算が設けられています。特に相談支援系サービスに
ついては、これまで「処遇改善加算は無関係」と整理されていたため、
今回の改正は実務上かなり大きな意味を持ちます。
加えて、障害福祉分野では、生産性向上や協働化に取り組む事業者に
対する上乗せの加算区分が設けられています。つまり、単に賃金改善を
行うだけでなく、業務改善や生産性向上の取組を進める事業所ほど、
より高い評価を受けやすい設計になっている点が今回の特徴です。
【介護分野】
今回の改正で特に誤解しやすいのが、配分対象職員の範囲です。
介護分野では、処遇改善加算を用いた賃金改善について、介護職員、
特に経験・技能のある介護職員の処遇改善が重要であることを前提に
しつつ、事業者の判断により柔軟な配分が認められています。
ただし、一部の職員だけに極端に集中させることや、職務内容・勤務実態に
見合わない著しく偏った配分は認められないとされています。
この点は、従来から処遇改善加算を取得している事業者でも、実際の運用が
「とりあえず一部職員にだけ手厚く配る」という形になっていないか、改めて
点検が必要です。
【障害福祉分野】
処遇改善加算の対象を「福祉・介護職員のみ」から「障害福祉従事者」
に拡大することが明示されました。
しかし、従前から処遇改善加算による賃金改善は福祉・介護職員を基本と
しつつ、その他の職員を含めた賃金改善を行うこと自体は可能とされて
いました。
つまり、事務職員等への配分そのものが、今回初めて認められたわけでは
ありません。
今回の見直しのポイントは、単に従来どおりの柔軟配分を認めるという
レベルにとどまらず、制度設計上、障害福祉分野の従事者全体を従前より
広く正面から処遇改善の対象として位置付け直したものと考えられます。
今回の見直しでは、特に障害福祉分野において、生産性向上や協働化への
取組がこれまで以上に前面に出ています。令和8年度においても、一定以上
の加算区分では、生産性向上に関する取組の実施や、一定割合以上を月給
賃金で配分することなどが求められています。
更に、今回の処遇改善加算では、ⅠおよびⅡに上乗せ要件があり、要件を
満たした事業者は処遇改善加算を上乗せして受給できる仕組みとなって
います。
注意点は誓約の扱いについてです。
令和7年度以前から処遇改善加算を取得していた事業所の中には、
令和7年度の処遇改善計画書の時点で加算取得の要件となる取組について、
”誓約”として提出していた事業者も多いものと思われます。
この場合、令和7年度の計画書提出時に誓約を用いていた既存事業所について
は、令和7年度中に必要な要件整備や取組が完了していることが、令和8年度の
処遇改善計画については前提となります。誓約の持ち越しはできません。
したがって、前年に誓約で届出をしていた事業所は、令和8年度の届出に
あたっては、単に「前年度も誓約で通した」という理解ではなく、前年中に
実施完了しているか、実施記録が残っているかを確認しなければなりません。
誓約はあくまで同一年度内の経過措置であり、恒久的な猶予ではない点を
押さえておく必要があります。
令和8年度の処遇改善計画書においてもこの誓約という選択項目は残りますが、
これは令和8年度から新たに処遇改善加算の対象となるサービス向けに設け
られる選択肢である点、注意が必要です。
実務上は、「まず加算だけ取って、後で考える」という対応は危険です。ICT活用、
情報共有方法の見直し、記録業務の効率化、会議運営の整理など、どの取組を
もって生産性向上や職場環境改善と位置付けるのかを、計画段階から整理して
おく必要があります。
今年度は、加算の見直しとあわせて、介護分野では「賃上げ・職場環境改善
支援事業」が、障害福祉では「障害福祉従事者処遇改善緊急支援補助金」が
実施されています。
ここで注意したいのは、報酬加算としての処遇改善加算と、補助金・支援事業
としての賃上げ支援は、制度趣旨も実施時期も完全に同じではないという点です。
たとえば、補助額による賃金改善や職場環境改善の実施時期については、
令和8年3月末までに補助金の支給を受けた場合と、令和8年4月以降に支給を
受けた場合とで取扱いが分かれています。
現場では、「処遇改善加算の計画」と「補助金の使途計画」が頭の中で混ざり
やすいのですが、財源、対象期間、報告方法、実施期限を制度ごとに切り分けて
管理することが必要です。ここが曖昧だと、賃金改善額の説明や実績報告で整合が
取れなくなるおそれがあります。
今回の改正を踏まえると、事業者としては少なくとも次の点を早めに確認して
おきたいところです。
第一に、自社のサービスが今年度から新たに対象になっていないかを確認する
ことです。介護なら訪問看護、訪問リハ、居宅介護支援、介護予防支援、
障害福祉なら計画相談支援、地域相談支援、障害児相談支援が典型です。
第二に、誰に、どのような考え方で賃金改善を配分するのかを整理することです。
単に「全員一律」か「一部重点配分」かではなく、職種、役割、経験、勤務実態
との整合性まで意識して設計しましょう。
この配分方法次第で、職員の定着に影響が出る場合があります。
また、決定した配分方法については、職員への周知が必要です。
第三に、職場環境等要件や生産性向上の取組を、計画書提出前に棚卸ししておくことです。
誓約で足りる部分があっても、後で実施確認が必要になる以上、最初から
実行計画まで作っておく方が安全です。
特に、今回の処遇改善から、要件に満たない場合の加算の返金等について明記され
ましたので、行政による運営指導の際にもこれまで以上に厳しくチェックが入る
可能性があります。
令和8年度の処遇改善加算は、対象サービスの拡大、配分の考え方の再整理、
生産性向上への取組の評価という点で、大きな転換点といえます。特に、
これまで加算対象外だったサービスや、相談支援系サービスを運営する事業者に
とっては、今年度から本格的に対応が必要になります。
一方で、加算を取得すればよいというものではなく、配分方法の妥当性、職員への
説明可能性、職場環境改善の実施状況、計画書・実績報告との整合性まで含めて
運用しなければなりません。
特に、新規対象となるサービスを展開する事業者は、あらためて社内ルールや
賃金改善設計を見直す必要があります。
当事務所は介護・福祉の事業者さまに対し、処遇改善加算に関するサポートを
行っています。
より高い加算を取得するための支援も同時に行いますので、お気軽にお問合せ
ください。